小林和史(Kazushi Kobayashi)
デザイナー、アーティスト。outsect
主宰。1983年イッセイミヤケデザイン事務所にてパリコレクションデザイナーとして勤めたのち独立。ファッションを中心として様々なジャンルで活動を続けている。ピエールカルダン賞、装苑日本テレビ賞など受賞多数。
代表作品:1998年「エミールガレ×小林和史展」... 続きを読む
OUTSECTアーティスト/デザイナー 小林和史
2007/09/21
私は戦争が嫌いである。日常の争い事も、ヒステリックな情況も真っ平である。そんな私であっても、職業柄「軍服」といった、サープラスなものには魅力を感じる。なぜにそれらには極限に研ぎ澄まされた機能美があるからだ。モノを通して人間の本性を見い出す行為はもはやフェティシズムとも言えるが、「軍物」程解りやすいアイテムも少ないのではあるまいか。
今回、ここに取り出した時計は私のコレクションのうちの3点である。プラスティック製のカーキ色をしたものは、1973製のBENRUS社の製造のものである。ベトナム戦争時代の大量生産型のプロダクトで製造年はもちろん、「October」と製造月までも明記されている。ダイバーズはROLEXの軍用で1976年製、イギリス空軍、海兵隊で使用されていたものである。これは私が25歳の時、文字通り清水の舞台から飛び降りた気になって買った、当時としては高価なものであり、ある意味、思い出深いものである。それにしてもこれを身につけていたオーナーがジェット機のコックピットの中で無限なる大空を駆けめぐっていたかと思うと、胸が躍る。そして風防に大きなひびの入ったものは、1972年製のHAMILTON社のクロノグラフである。すべてのアンティーク時計には、かつて所有していた人間の人生と歴史的背景が染みついている。ましてや軍物のそれらには裏蓋に製造年月日やシリアルナンバー、中には名前なんかも記されているのだ。これらにより、時代背景や使用されていた「現場」が特定しやすく、所有者の階級やポジションなども予測できる。これらの時計は一体どんな体験を共にしてきたのだろうか。そしてこれらのオーナーは今、息子や孫たちに囲まれて平和な人生を送れているのだろうか?
映画「パルプフィクション」の中でブルース・ウィリスが曾祖父から、祖父、そして父へと共に戦火を無事にくぐりぬけてきた「ラッキーな」時計を受け継ぐ一説がある。結構笑えるシーンで好きなのだが、キズついたそれらの時計にはむき出しの人間の本性のようなものが宿っている気がしてならない。
それゆえ、私はなるべくそのままのコンディションで次のオーナーへ受け継いでゆきたいと思うのだ。さて、こんな話をした後では妙にリアルに見えてきたと思われる、このクロノグラフのキズであるが、実はこれは20年ほど前に私自身がつけてしまったものである。オートバイで旅行中、濡れた路面でカーブ仕切れず、私の身体はあっさりと高速で路上に投げ出されてしまった。これを見る度にその日、その場所、その空気や臭いまでもが、痛い(?)程に甦るのだ。・・・ということは、もはやこの時計の傷は私の命がけの記憶の貴重な一部であり、世界にたったひとつのオリジナルの時計なのである。
かつてベトナム戦争を生き抜き、いきなり陳腐ではあるが私のオートバイ事故をくぐり抜けた「幸運」な時計なのである。そのように思うと、この風防はおいそれと新品と交換出来ない訳で、本来の手先の器用さを駆使しプラスティックの風防に小さな穴を開け、ステンレスの針金で縫い、紫外線で固まる樹脂で隙間を埋めた。何とも物騒な外見になってしまったが「軍用」だと言えばそのようにもみえてくるのではあるまいか。
バンドは革の衣服を製造したときの端切れでこしらえた。以後20年間、このスタイルで時々私に正確な時を告げてくれる。願わくば、デザイナーの一人としては、次のオーナーもこの有様を美しい、と感じ、そのままに使用してくれるとうれしいのだが、あっさりと新品のガラスに交換してしまうのが、目に見えるのである。
