連載コラム ライフスタイル 【小西康隆の『小粋の哲学』】 Vol.6

行きつけの店を持つ。

(株)インタープラネット プロデューサー 小西康隆


2007/10/24

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こんにちは、小西です。

秋は“食欲の秋”、“味覚の秋”と言われるように楽しい食の宴が多くなる季節ですね。巷の書店などへ行くと食に関する雑誌やガイドブックが無数に出ていますね。特に最近は「下町の居酒屋や老舗の名店を訪れる」、と云った趣向の特集を多く見受けます。しかしながら、実際にその店を訪れて食事をし、酒を飲み、原稿を書いている筈なのだが、どうもその店の神髄を理解して無かったり、にわか仕込みの聞きかじりで書いているような記事が目立つのである。無論、マッキー牧元氏のように素晴らしい文章を書く方も数多い。

これは僕の持論であるが、人に勧めるならば最低5度は通った店を教えることにしている。そりゃあ初めて入って感動して大いに満足したと感想を書く事はあるが、人にオススメする為には足繁く通って、味、趣き、人柄なども十二分に僕が把握してからにしている。

行きつけの店を持つ。

先日もと或る雑誌をめくっていると、南千住の老舗うなぎ屋『尾花』に行ってみたと言う記事が出ていた。その筆者は土曜の昼時に向かったそうだが、一番店が混む時である。当然ながら風情ある店構えなど望める状態ではなく、門の外まで行列が出来ているであろう時間帯だ。そして、暑い中並んでいると女性のスタッフにメニューを渡され、注文を聞かれたと云う。更に「後からの追加オーダーは出来きません。お土産の蒲焼きなども最初にご注文ください。」と伝えられ、何だか取材前の意気揚々としたハレの気持ちが消沈してしまったような事が書かれていた。そして、一時間以上並び、いざ店の中に入ると大部屋座敷の入れ込み式で参った、と記す。この人はもう鰻を食べる以前に自分の想像していた老舗名店のイメージを完全に崩してしまっていたのだなぁ。肝心の鰻の美味さに関しては、深く語られていなかったのが残念だった。

さて、この「尾花」と云う店は旧江戸の北郊、千住で長年庶民から愛された歴史ある名店である。昔は東京湾の江戸前、利根川、手賀沼の三カ所で捕れる鰻が本場中の本場と呼ばれていた。そして、その天然鰻のでかい奴を「ボッカ」という。木杭(ぼうっくい)のことで、木の杭程に大きい鰻のことをこう呼んだらしい。11月頃になるとボッカの「下くだり」といって、いちばん美味しい季節だったそうだ。このボッカを名物にしていたのが尾花であった。ここでは、注文を受けてから鰻を捌くので、当然時間がかかるのである。客もそんなことは百も承知なのである。「うざく」や「う巻き」で一献つけてのんびりと待つ客も居れば、板場を覗いて待つも良し。また、鰻が焼き上がるまで近くの水戸浪士三十三人の墓やねずみ小僧次郎吉の墓を見物するのも愉しい時間待ちである。尾花へ行く手前角は江戸の刑場が在った小塚ッ原、回向院が在る。

こうやって、素敵な待ち時間を迎えると、ふっくらふわふわの極上の鰻の蒲焼きが出来上がって来るのである。こんなに楽しい気持ちで箸を進めれば美味いに決まっているのだ。ここは何度通っても、一体全体どうやったらこんなにも柔らかく焼き上げれるのだろうか、と驚かされるばかりである。また、平日の午後1時過ぎに行けば、並ぶ事も無くスッと入れるのである。何もわざわざ一番混む時間帯を狙って行くことはないのだ。また土日ならば昼時が終わった3時頃がいい。何度も足を運んでみないと、こんなコトは判らないのである。ここは、是非皆さんにも味わってもらいたい一軒だ。

まぁ僕が伝えたいのは、自分がとことん気に入って通っている店であれば、大切な方々をもてなすのに先ず間違いないだろう,と云うことだ。決して、アンチョクに雑誌をめくって知った店に大事なお客様やガールフレンドを連れていかぬように気を付けてもらいたい。そして自信を持って人におもてなしが出来る「行きつけの店と酒場」は、数軒は持っていて欲しい。寿司屋、蕎麦屋、居酒屋などなど。これも大切な大人の鉄則である。

行きつけの店を持つ。

行きつけの店を持つ。


小西康隆(Yasutaka Konishi)

小西康隆(Yasutaka Konishi)

株式会社インタープラネット プロデューサー。1960年2月、北海道生まれ、渋谷育ち。
10年間のサラリーマン経験の後、バブル経済終焉の'91年に起業。広告制作、生活雑貨のプロデューサーとなり、趣味で始めたバーをきっかけに飲食プロデュースを多く手がけるようになる。現在は飲食店経営の他、広告・ブランディング... 続きを読む



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