連載コラム グルメ 【マックロマンスの遊牧民的バーライフ】 Vol.17

再びマルガリータに捧ぐ

バー・スタイリスト MAC ROMANCE


2007/12/07

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マルガリータの話をこのコラムで書いたことを、友人(中年男性)に話したら、おっさんはバーでマルガリータを飲んではいけないのかと残念がっていた。冷たいことを言うようだけれど、私はおっさんはバーでマルガリータを飲んではいけないと思う。

酒を飲みたいという欲求は、食欲や性欲などと同じく動物的な欲求に近いと思う。体がアルコールを欲するという状態は、程度によっては病気なわけで、病と食の欲求をいっしょくちゃにすることには異論もあろうが、生きていくためにはアルコールの摂取が必要だと身体が信じ込んでいる状態がアルコール依存症である。自分の意志とは別のところで、身体がそれを求めているという意味で、それらの欲求は同類だと私は解釈している。

これに対して、かっこよく酒を飲みたい。という欲求はとても人間的である。異性と知り合ってセックスすることだけを目的にバーに通う輩のそれは、まあ野蛮な動物を連想させるではあるけれど、一人でバーカウンターに座って酒を片手に深い思考の旅に出かける。なんて状況で人が得る喜びは、その人の世界の中だけで完結している自己陶酔、自己満足的な喜びである。私が敬愛するある女性作家が、そのような喜びのことを総称して、「ファンタジー」と呼んでいた。

ファンタジーの定義を語るにはページがいくらあっても足らぬが、それは身体の欲求とは関係なく発生する心の欲求を満たすものであり、また人に認められたい、人よりも偉くなりたい。などの社会的欲求下に属さない、完全自己完結型のエクスタシーである。として話をすすめる。

飲酒などの嗜好や趣味、美容やダイエットやファッション、時として恋愛や性行為にいたるまでファンタジーの対象となりえるサブジェクトは無数に存在する。何をもってして満足するかは人それぞれで、他人には全く理解不能なファンタジーも少なくない。収集家系のファンタジスタは人畜無害である場合が多い。寄生虫を集めている人の頭の中は理解できぬが、勝手に集めてくれるぶんにはこちらには何の迷惑もかからない。最近ではおたくと呼ばれる本来インドア派の人たちが、堂々とストリートに出没してきていて、こちらは少々迷惑である。一般的に人は美しいものを見るとよい気分になり、醜いものを見ると気が滅入る。

再びマルガリータに捧ぐ

他人にはとても同調できないことに夢中になるのがファンタジスタの基本である。人にどう思われようとオレはオレだぜという気持ちはとてもよく理解できる。しかし、人は社会に属すものであり、社会にはマナーというものがある。人としての欲求を満たしたいのであれば、人としてのマナーにも気をつかうのは当然、趣味の悪さを公共の場でわざわざ披露するのは立派なマナー違反である。ジムのおばはんのレオタードは気色悪いからやめてくれと申しているのである。

バーカウンターでマルガリータのグラスを傾けるおっさんがかっこいいとされる時代が過去には確かに存在したようである。でも賭けてもよい。そんな時代はもう二度と戻ってこない。バーという空間は男がファンタジーを得るために都合のよい条件がととのったスペースである。そこで得るエクスタシーはさぞかし強力であろう。しかしあなたがよい大人であるならば、あなたのその喜びが他人の苦痛の上に存在しているということを知るべきである。中年男のマルガリータのいかに気色の悪い事か!

マルガリータは本当によくできたカクテルだと思う。恋人の名前をそのままに死者に捧げる悲しくもロマンティックな酒である。死者の魂に敬意を表し、戻ってこない一度きりのトレンドに関わることができた喜びに感謝し、マルガリータをたしなむ男性がかっこいいとされた、古き良き時代の亡霊を、勇気を持って葬り去ろうではないか。


マックロマンス(MAC ROMANCE)

マックロマンス(MAC ROMANCE)

1965年8月東京生まれAB型。1983年単身渡英しプロミュージシャンとして活動する。1988年帰国、バーテンダーに転身。1993年東京都目黒区自由が丘に「プースカフェ」を開店、自ら店に従事する。2003年バースタイリスト活動を開始。バーのプロデュース、カクテルブックの制作など多方面のフィールドで独自スタイルのバーワークを展開... 続きを読む





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