マックロマンス(MAC ROMANCE)
1965年8月東京生まれAB型。1983年単身渡英しプロミュージシャンとして活動する。1988年帰国、バーテンダーに転身。1993年東京都目黒区自由が丘に「プースカフェ」を開店、自ら店に従事する。2003年バースタイリスト活動を開始。バーのプロデュース、カクテルブックの制作など多方面のフィールドで独自スタイルのバーワークを展開... 続きを読む
バー・スタイリスト MAC ROMANCE
2007/12/14
自分の店で働かなくなってから、かれこれ2年になる。通っている飲み屋の主(あるじ)がいなくなると、常連客の多くは何だか裏切られたような気持ちになるらしい。マックロマンスのいるプースカフェを愛してくれたお客様たちには心の底から申しわけないと思う。いなくなるにしてももう少し筋を通すべきだった。でも当時の私には正直そんな余裕はなかったと思う。逃げ出すか死ぬかという場面で私は逃げる方を選んだ。あのとき逃げ遅れていたら間違いなく死んでいたと思う。死んだ方が美しかっただろうが結果として私は生きた。それでよかったかどうかはよくわからないけれど、そんなあいまいなことを言っているとソウ・シリーズのジグソウみたいのがやってきて、もっとまじめに生きるべし、だなんて酷い拷問を受けた末に殺されそうでそれは困る。まあなんていうか、生きていればよいこともある。
店で働くのをやめてよかったことはたくさんあるけれど、カフェで時間をすごすのが楽しくなった。というのがある。世の中には器用な人がいて、シチュエーションごとにぱっと頭の中を切り替えられる人がそうであるが、私なんぞは不器用の真骨頂、店をきりもりしていた頃は、町場でちょっとしたカフェなぞに入店したら大変、メニューの内容に始まって、プライスやインテリアや接客態度や果てはトイレットペーパーの種類に至るまで、いろんなことが気になって、とても落ち着いてコーヒーやビールを楽しむどころではない。程度の低い店にはその存在に腹を立て、逆にすばらしい店に出会ったらジェラシーと不安と自己嫌悪に苛まれるといった次第で、仕事のことを忘れてゆっくりと自分の時間をすごすための空間であるはずなのが、逆に仕事を思い起こさせストレスを発生させるという始末で、いつしか私は、自分の意志でカフェやバーのような場所に足を運ぶことをやめてしまったものである。
時を経て「マックロマンスのいないプースカフェ」は今では私の最もお気に入りの店である。店をやめたおやじがカウンターの真ん中に居座ってくだをまいているのは、あまりすばらしいことではないので、私が店を訪れるのはお客の少ない平日の開店直後がほとんどである。ビールを注文し、ビリー(現在のプースの主)と何気ない言葉を交わし、最初のお客がやってくるころには店を出る。プースカフェでは飲んでも絶対に酔わないのが私のルール。酒飲んで酔って何が悪い!というような人はぜひプーカフェには立ち寄らないでいただきたい。
プースカフェ以外にも日常的に足を運ぶ店がいくつかある。お気に入りのカフェを訪れて、コーヒーやビールを飲んだり、本を読んだり、何もしないでぼおっとしたり、あるいはコラムのネタを考えたり、新たな企画のためのアイデアを練ったりするのは至福の時である。今さらながらだけれど、私はカフェで時をすごすのが本当に好きなようである。自宅でコーヒーを飲むのももちろん好きだし、なじみが集まる酒場に顔を出すのも楽しくはある。公園や映画館や美術館や図書館や車の運転やウインドーショッピングや…自分の時間をすごす場所や方法はたくさんあるが、私の生活においてはカフェですごす時というのがとても重要であるようだ。
人恋しさにそこを訪れるわけではないから、知り合いによく会うような所はよくない。サービスも必要最小限でいい。マスターが命がけでコーヒーをいれているような店は少々堅苦しい。かといってコーヒーがあまりに不味いのは考えもの、経験から想像するに内装やインテリアにお金をかけているようなおしゃれな店のコーヒーが不味いのはビールの話のときと同様である。行きたいと思ったときにすぐ行ける、日常生活のエリアの中にそれがあるというのも重要である。好みが一致し何もかもがしっくりいくような店と出会うのはそうしょっちゅうあることではない。でもそういう風にして見つけたお気に入りの店でくつろいでいる時、生きててよかったと思うことがある。これ以上にどんな類いの幸福が存在するのかとすら思うことがある。少々気恥ずかしい告白だが、本当の話である。

1965年8月東京生まれAB型。1983年単身渡英しプロミュージシャンとして活動する。1988年帰国、バーテンダーに転身。1993年東京都目黒区自由が丘に「プースカフェ」を開店、自ら店に従事する。2003年バースタイリスト活動を開始。バーのプロデュース、カクテルブックの制作など多方面のフィールドで独自スタイルのバーワークを展開... 続きを読む