連載コラム グルメ 【マックロマンスの遊牧民的バーライフ】 Vol.26

知り合いのバーでひとりのときは何を飲むか

バー・スタイリスト MAC ROMANCE


2008/02/08

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ヴェルモットという酒がある。ワインをベースにハーブやらなんやらを配合した混成ワインで、本国のフランスやイタリアでは主に食前酒として親しまれている他、カクテルの材料としても欠かせないポピュラーな酒である。日本では以前はヴェルモットをそのまま召し上がる人は少なくて、もっぱらマティーニを作るための材料としてのみバーの片隅に存在していたのだけれど、いつ頃からかオンザロックにレモン付きのスタイルが流行しだして、酒はたしなむけど大酒飲みじゃない層の強い支持を受け、今ではどこのバーにも数種類のヴェルモットが常備されているぐらい一般に浸透した。このコラムをお読みの皆さんの中にも、冷蔵庫にいつもチンザノが冷えている。というような方が多くいらっしゃるのではなかろうか。

知り合いのバーでひとりのときは何を飲むか

酒は嗜好品で、嗜好品を商品として世の中に広く広めるためには、その商品のイメージづくり、ブランディングが非常に重要、という考えで一致していると思う。ブランディングの方法はさまざまで、信じられないぐらいの広告宣伝費をたったひとつの商品のために投下したり、ちょっとやそっとでは思いつかないような奇抜なアイデアを投入したりと、広告屋にとっても酒の商品イメージづくりは腕の見せどころ、やりがいのある仕事であるにちがいない。

日本で好まれているヴェルモットといえばフランスのノイリープラットとイタリアのチンザノが上げられると思うが、中でもチンザノはさまざまな洋酒の中でも、ブランドイメージの構築にかなり成功した酒だと思う。1950年代のジャンコランのポスターをはじめ、その時代時代のアートとうまく融合しながら、どこかお洒落でポップでアーティスティックな印象を常にまといながらここまでやってきた。ちょっと調べてみたら2000年くらいからカンパリの傘下に吸収されたようで、これぞまさに鬼に金棒、カンパリと言えば、いわゆる薬草系のリキュールの世界において、おそらく最も成功した酒である。

そんなチンザノはバーのカウンターでもとてもよく飲まれている。辛口のドライ、甘口のロッソ、ロゼに加えてオレンジテイストのオランチョなどバリエーションも豊富、ドライとロッソを半分ずつで割ったものはCINZANO+CINZANOの頭文字をとってCINCIN(ご存知イタリア語で乾杯の意)と呼ばれ、酒場にありがちなエロトークのドアをノックしてみては、カクテルの王と呼ばれるマティーニの材料として重宝され、ロッソ(イタリア語で赤)と言えば今やチンザノロッソのことを指すというぐらいの人気ぶりである。

冒頭でも申したようにチンザノは何故かオンザロックで飲まれている。ヨーロッパの人はもともと飲み物にむやみに氷を入れることを好まないたちだし、チンザノのホームページをチェックしてもそれをロックで飲むのを流行させようとする意図はあまり感じられない。ベルモットをロックで飲むスタイルはメーカーがしかけたトラップではなくて、バーに通う人たちの間で勝手に発生して自然にスタンダードなスタイルへと発展したのではないかと私は考えている。もちろんそれ自体がしかけだったということだってじゅうぶんにありうるけれど。

私自身はドライベルモットを飲む時はノイリープラットを、スイートベルモットを飲む時はチンザノをセレクトすることが多い。どういうときに飲むかと言うと、知り合いのバーにてひとりのとき。同業者がバーを訪れた場合、それ相応のお金を使って帰るのがマナーという暗黙の了解がある。かといって露骨に高価なシャンパンを開けてまわりにふるまうなんてのはNG。ホストクラブじゃあるまいし。ビールでお金をたくさん使うのは腹いっぱいになって大変だし、ウイスキーなんかいっぱい飲むと酔って店に迷惑かける。アルコールが度数が低くて飽きずに何杯も飲めるベルモットは、いやらしくなくお金がたくさん使えて顔が立つというわけである。

今回はまじめに酒の話をしてみた。チンザノに金をもらってるわけではない。念のため。


マックロマンス(MAC ROMANCE)

マックロマンス(MAC ROMANCE)

1965年8月東京生まれAB型。1983年単身渡英しプロミュージシャンとして活動する。1988年帰国、バーテンダーに転身。1993年東京都目黒区自由が丘に「プースカフェ」を開店、自ら店に従事する。2003年バースタイリスト活動を開始。バーのプロデュース、カクテルブックの制作など多方面のフィールドで独自スタイルのバーワークを展開... 続きを読む






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