連載コラム ライフスタイル 【小西康隆の『小粋の哲学』】 Vol.12

寄席でデートも中々どうして、オツなもの。

(株)インタープラネット プロデューサー 小西康隆


2008/02/13

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夜道を歩いていると、向こうの赤提灯が目に止まる。近くまで行くと、格子戸の隙間から店の支度をしている女が見える。おぉ、歳の頃は三十前後、後ろ姿が妙に艶っぽいじゃないか。うなじに惹かれ、暖簾をくぐると、その女将が優しく声を掛けて来た。

「外はたいそう冷えますねェ。旦那さん、ちょいと休んで行かないかい。酒は燗がいいのかぃ?」と云われ、すこぶる気分が良くなってきた。「おう、こんな寒い夜はとびきり熱い燗酒に限るナぁ」と腰を掛けて待つ事にした。

「火を熾したばかりだから、ちょっと待っててオクれよ、お前さん」と来たもんだ。むふふ。こりゃ、銚子の数がススんで来たら、暖簾を仕舞って、あんどん消して、俺たちも二階にスぅっと消えるって案配かな?

と、一人愉しい秘め事を思い描き熱燗がつくのを待っている内に、目が覚めてみれば夢。「あぁ、冷やで呑めば良かった。」

こんなイイ思いは、そうそう出くわさない。所詮夢の中、落語の小ばなしの一つである。

ドラマ「タイガー&ドラゴン」から火が付き出して、今では朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」でも上方落語が舞台となり、ここ最近、落語が大変な人気である。

しかし、大人気故に大好きな噺家の落語会がどんどんと取り辛くなって来ている。先日も立川一門の落語会に行こうと思い、チケットの発売日に予約をしようと思った時の事。午前10時から発売開始だったので、携帯電話からチケット予約のサイトを立ち上げ、慣れない手つきで操作をし出した。中々思う様にその落語会の処まで辿り着けず、ようやく目当てのページに行き着くと、既に10時15分過ぎ。すると、画面には「予定販売枚数に達しましたので終了致しました。」と冷ややかな告知が出て来たのだった。そりゃぁ無いだろう、まだ15分だぞ。それにこっちは10時ジャストから操作してたんだい。てな、訳である。

立川一門は本当に取り辛くなった。毎年、パルコ劇場で開催される「志の輔落語 in PARCO」は大体即日完売である。人気の落語会は発売初日から、どの日でも良いから取れる日程を押さえておくに限るのだ。毎回、当日券販売と云うのも有るのだが、電話なんか繋がったタメシがない。朝から数100回架けても「ただいま、電話が大変混み合っております。暫くしてからお架け直しください。」との非情なアナウンスしか応答が無いのである。こりゃあ、仕事している輩には無理なのだろうなぁと、痛烈に感じた思いがあった。今年は特に志の輔師匠の創作落語「歓喜の歌」が映画化され、それに合わせたカタチの興行だったのだから、尚さら人気だったようだ。

上野 鈴本演芸場 チラシ

こんな落語ブーム真っ只中でも、常設の「寄席」はまだまだ気軽に楽しめる。都内には大きく5カ所、「浅草 演芸ホール」、「新宿 末広亭」、「上野 鈴本演芸場」、「池袋 演芸場」、「隼町 国立演芸場」の常設寄席が在る。どの寄席も毎月10日毎に出番が代わるので、贔屓の噺家や聴きたい方を事前に調べて出向くのが良い。また、昼の部と夜の部が在るので、可成り沢山の高座を楽しむことが出来るのである。

寄席は、落語の他に「色物」と呼ばれる漫才や物まね、奇術、独楽(コマ)回しなど多種多彩の芸を見る事が出来る。中でも落語家以上に人気が高いのが「紙切り芸」の三代目林家正楽師匠だ。寄席史上初、紙切りでトリを努めたスゴイ方なのである。

正楽師匠が出演する寄席には、師匠にリクエストして紙を切ってもらいたいと云う目当ての客が大勢居て、みんな我こそは、と声を上げるのである。そして、寄席の礼儀が判っている通なお客さんは、ちゃんと「ポチ袋」にご祝儀を用意して、切ってもらった作品を受け取る際にサッと手渡すのである。これはいつ見ても、実に粋である。

上野 鈴本演芸場

寄席の入場料は、どこも2,000円から2,800円と値段も手頃で昼席、夜席入れ替え無しの小屋も在る。中でも、上野の「鈴本演芸場」はお酒や食べ物の持ち込みも自由なので好きな酒を一献つけながら落語を楽しむ事が出来るのである。

ピクニックじゃないが、お洒落をして、お弁当とお酒を持って出かけてみるのも楽しいひと時。たまには、ガールフレンドとこんな休日の過ごし方も良いんじゃないかな。僕も二月は大好きな柳家権太楼師匠を聴きに、鈴本と池袋演芸場に出掛けるのである。


小西康隆(Yasutaka Konishi)

小西康隆(Yasutaka Konishi)

株式会社インタープラネット プロデューサー。1960年2月、北海道生まれ、渋谷育ち。
10年間のサラリーマン経験の後、バブル経済終焉の'91年に起業。広告制作、生活雑貨のプロデューサーとなり、趣味で始めたバーをきっかけに飲食プロデュースを多く手がけるようになる。現在は飲食店経営の他、広告・ブランディング... 続きを読む





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