西村陽(Kiyoshi Nishimura)
大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む
大阪大学大学院工学研究科客員教授 西村陽
2008/03/25
2012年を目標に、次世代スーパーコンピュータが神戸市に作られることをご存知だろうか。パソコンの演算速度や情報処理性能が飛躍的に向上しつつある今日に「スーパーコンピュータ」というとやや感触がつかみにくいかもしれないが、世界のコンピュータ技術を主導する日米両国は、争って計算の高速化を進めてきた。そのスピードは凄まじく、毎年1.9倍の性能になっていくという。2002年に横浜市に作られた海洋研究開発機構のスーパーコンピュータがもうお払い箱になるというニュースを見聞きした方も多いのではないだろうか。現在世界最高速度の米国ローレンスリバモア研究所のスーパーコンピュータは横浜の10倍以上の性能だが、神戸はそれのさらに20倍の10ペタフロップス(一秒間に1千兆回の計算が可能)という計算速度を持つ。
こうした高速計算が可能なコンピュータの用途は、大きく「ミクロなもの」「複雑で不確実なもの」のシミュレーション計算である。「ミクロなもの」とは分子レベルの物性分析や遺伝子の解析であり、いわゆるゲノムを使ったテーラーメイド創薬やレーザーによるがん治療の最適化が期待されている。一方「複雑なもの」とは、航空機の開発に必要な空気の流れの解析、自動車の衝突時の衝撃分析といった、従来巨大な風洞実験や実車を使った莫大な数の衝突実験を行なっていたものがシミュレーション可能になるといったものである。
そして、この「複雑で不確実なもの」の代表の一つが「地球そのもの」である。昨年ノーベル平和賞を授賞した地球温暖化問題の政府間パネル(IPCC)も、従来のコンピュータでは20年かかる100年分の地球シミュレーションを4週間で実施し、現在の各国協議の基礎データとして使っている。仮定の置き方に関する正確さと各国合意があれば、100年後の地球の姿を見通すことは計算上さほど難しいことではないのだ。
地球温暖化問題は京都議定書以降、科学的な根拠の有無について様々な論争を産んできた。特に米国が議定書から離脱して以降は、米国有力誌に「地球温暖化は嘘だ」という記事が定期的に掲載されており、逆に正確な科学的根拠に基づかない「地球はこうなる」という出版物も氾濫している。その点でこれからの世界にとって必要なのは、IPCCの報告書に限らず技術開発の達成度や政策の方向性、各国の協力や連携という様々な仮定に従ったシミュレーションを繰り返し、それを共有していくことではないだろうか。
地球温暖化問題とその対策の枠組みは、確かに国際政治のゲームであり、その中には日・米・欧間、先進国と発展途上国間のどうしようもない利害対立がある。しかしながら、まず自分たちの将来を知り、打ち出す施策の効果を認識することの意義は間違いなく大きいし、そのために日本の、神戸のスーパーコンピュータが使われることになれば、温暖化問題への立派な貢献ではないだろうか。

大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
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