西村陽(Kiyoshi Nishimura)
大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む
大阪大学大学院工学研究科客員教授 西村陽
2008/05/12
先月20日、北京で開かれたモーターショーの盛大さは日本の新聞紙上でも数多く紹介された。世界の主要メーカーが参加したのはもちろん、日本からは日産、トヨタ、三菱の各社社長がこぞって参加した。少子高齢化と若者の車離れが進む日本、景気の変調とガソリン価格上昇から当面大きな伸びが望めない米国という二つの市場の状況を考えると、年間一千万台と言われる中国市場に熱が入るのは当然と言える。
一方インドではさらなる衝撃が市場を襲おうとしている。国内第二位のメーカーであるタタが進めている「ワンラックカー」プロジェクトがそれであり、平均的な労働者でも手の届く10万ルピー(ワンラックと呼ばれ、約25万円)のコンパクトカーを商品化し、一気にシェアを奪い取ろうとするものだ。
1920年代、まだ高級品だった乗用車は低価格車T型フォードの開発とローンサービスの開始によって労働者階級にとって手が届く商品となり、米国をはじめとする先進国の社会インフラは自動車がある前提で整えられていったのである。同じ軌跡を中国とインドがこれからとっていくことを邪魔する権利は誰にもないのだが、いかんせん同じ軌跡をとって発展していくにはこの両国は大きすぎるのである。
中国・インドはまだまだ貧しい国だが、購買力平価ベースのGDP、つまり生活実感としての消費量では中国は日本を上回り、インドも日本に迫っている。それでも一人当たりのCO2排出量で日本2.67C-tを大きく下回っている(中国1.06C-t、インド0.30C-t)のは、この二国が本格的なエネルギー利用の段階、具体的には電気と自動車の大量利用にまだ足を踏み入れていないからに過ぎない。現在でも世界第一位、第五位である中国、インドが、仮に米国並みの自動車社会になるとすれば、先進国がいくら排出CO2を減らしても追いつかない。しかも中国・インドは典型的な石炭火力中心地域であり、プラグイン・ハイブリッド化しても日本と違って低炭素化が困難なのだ。
ここでなすべきことは、中国・インドの運輸体系自体を米国・欧州型にしてはならないということではないだろうか。米国・欧州と違い、日本の場合はかつて輸送の主役は鉄道であり、旅客の中心ももちろん鉄道であった。トラック運送会社の社名の多くに「通運」、すなわち鉄道で着いた後の荷捌きと端末輸送という名前が残るようにも本来日本では低炭素的な運輸システムがとられていたのである。それを長距離トラックとマイカーの社会に変えたのは、長期にわたる石油の低価格と道路優先の政治である。その二つの前提が崩れつつある今こそ、日本が物流・旅客両面にわたって低炭素の新しい運輸システムを構築して、それを二つの排出大国に発信していくべきなのではないだろうか。

大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む