連載コラム エコ 環境問題【環境戦略の新時代】Vol.16

ビジョンの欧州、実績の日本

大阪大学大学院工学研究科客員教授 西村陽


2008/06/05

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ビジョンの欧州、実績の日本

最近、洞爺湖サミットが近づくにつれ、新聞紙上等で地球温暖化問題について「日本は産業技術の高さ(実績)を声高に主張するばかりで温室効果ガス削減のビジョンが見えない」「世界の標準である欧州の方式に背を向けていては国としての見識を問われる」という論陣が多く張られるようになってきている。確かに環境税についても排出権についても入り口から論議も許さない、という数ヶ月前までの日本の産業界の態度は褒められたものではないが、一方で「世界標準」とまで主張される欧州の「実績」がどのようなものかも一応見ておく必要があるのではないだろうか。

日本の産業界と比較するために、欧州の産業界の排出実績である電力・熱生産に伴うCO2排出を見た場合、2006年実績は1400万CO2-t増加している。電力・熱生産に伴うCO2排出にはEUETS(欧州排出権取引)の仕組みによる排出キャップがかかっており、企業間の排出権取引も行われているはずなのになぜこのような結果になったかというと、一つにはEUETSに欧州内のすべての国・企業が参加することを優先した結果、当面かなり緩いキャップにならざるをえなかったという事情がある。本来義務付けではなく「自主行動計画」という、一種各社の株主には説明のつかないような仕組みで削減を進めている日本が(柏崎刈羽原子力の停止影響を除けば)着実な成果をあげているのとは対照的と言えよう。

そして、こうした欧州の実績の悪さのもう一つの原因は、実はここ数年のユーロ圏のバブル景気にある。欧州の代表的な株式市場であるフランクフルト市場の株価はここ5年間で2.7倍となり、EU27カ国の実質経済成長も2006・2007続けて3%前後と、日本から見ると羨ましい限りであるが、よく日本の産業界が言う「経済成長と温暖化対策は(短期的には)両立しない」という現実が、皮肉なことに「そんなことはない」と主張している欧州で立証されてしまっているのだ。

しかしながら、「ビジョンの欧州」はすべて口だけかといえば、家庭用や業務用分野の削減では、欧州の2006年実績がおそらく日本を上回っている。ガソリンへの高率の課税やLRTを導入したパークアンドライド、家庭用省エネルギーの強い義務づけ等、大胆な政策で一つずつCO2排出を抑え込み、市民がそれに従っている姿は、暫定税率問題を政争の具としている日本とは大きく異なっているのだ。

もちろん欧州はもともと家庭・業務部門のエネルギー利用効率が日本より悪く(約半分)、割り引いて考えなければならないが、ここまでの一応の結論は、産業分野は実績主義が大事、市民のかかわる分野はビジョンと政策への共感が大事、ということである。日本の温暖化対策はこの方向に行っているのかいないのか、もう一度現状の議論を振り返る必要があるのではないだろうか。


西村陽(Kiyoshi Nishimura)

西村陽(Kiyoshi Nishimura)

大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む






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