連載コラム エコ 環境問題【環境戦略の新時代】Vol.18

人間はスゴい!!

大阪大学大学院工学研究科客員教授 西村陽


2008/07/07

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人間はスゴい!!

わが国の大規模事業所(工場やビル)では、省エネ法によって中期的に年1%程度の使用エネルギー原単位削減が義務付けられている。実質的にはEUよりもはるかに厳しいキャップであり、各企業とも必死の工夫を重ねてこれを達成しようとしている。

その一環としてベルトコンベアを休止したり撤去したりする企業が増えているのをご存知だろうか。ベルトコンベアはかつて近代工場の象徴であったし、大量生産と分業を可能にする。しかしながら一方で常に運転のためにエネルギーを必要とし、その分CO2も排出することになる。大量生産から多品種少量生産にシフトしつつある今の製造業では、乗用車のようによほど重いものでない限り、流れ作業よりもいわゆるセル生産方式(一人の熟練作業員が多くの部品を集め、組み立てる)の方が合理的になってきているのである。

という話を先日来阪された一橋大学イノベーション研究センターの米倉誠一郎教授にしていたところ、「そりゃ君、エネルギーの話じゃなくて機械より人間の方がスゴいってことだよ」というご指摘をいただいた。ベルトコンベアは考えてみればラインの中で一番生産性の低い人(遅い人)に合わせてスピード設定せざるをえないが、セル生産で個人の創意工夫を最大限活かすようにすれば思いもしないイノベーションが生まれる。結局どんなに階層組織による合理化や生産現場の合理的分業システムを考え、実行したとても人間の持つ可能性にはかなわない、というのが本質だ、とおっしゃるのだ。

20世紀初頭に米国に生まれた経営学は、まず「科学的管理」からスタートした。テイラー、フォードといった分業や管理制度による品質維持・向上のノウハウこそが経営だ、というのが当時の考え方で、今日そうした管理基軸の考え方を「テイラー的」と呼んだりする。それから百年が経ち、経営学はイノベーション促進のための人や組織のあり方、新市場を創造するためのマーケティング、自分独自の素質や資源を活かして競争に立ち向かう戦略論等に多元化したし、今日ヒエラルキー(階層)型組織が権限を分け合って業務を執行するような管理システムがあるべき姿だと考える専門家はまずいない。

しかしながら、実際の企業現場では未だに一部で「テイラー的」な手法や管理組織が生き残っている。特に一部の日本企業ではむしろ生産現場よりもホワイトカラー職場にその傾向が強く、それが新しいアイディアや製品、企業革新への壁として立ちはだかることもしばしばだ。

地球温暖化問題も、グローバル市場も、消費者のネット化も、経営学が誕生した百年前にはなかったものである。それらに社会や企業が立ち向かう時に、経営や組織の思想が百年前のままでは太刀打ちできないのは当然のことと言える。「人間はスゴい!」ということにより多くの人々が気づき、社会や企業の中の「人間」の創意工夫を最大限活かそうとすることが、実は低炭素社会への手がかりの一つなのではないだろうか。


西村陽(Kiyoshi Nishimura)

西村陽(Kiyoshi Nishimura)

大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む






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