連載コラム エコ 環境問題【環境戦略の新時代】Vol.19

実は大転換点!?洞爺湖合意

大阪大学大学院工学研究科客員教授 西村陽


2008/07/14

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実は大転換点!?洞爺湖合意

7/9に閉幕した洞爺湖サミットの地球温暖化にかかわる成果に関する新聞・テレビの論調はなかなかに厳しいものだった。「薄氷の合意」(日本経済)、「大きな進展見られず」(産経)、「苦しい結束」(朝日)等、あたかもホスト役の日本と福田首相が期待どおりに働けなかったかのようだが、洞爺湖合意をきちんと見ると、地球温暖化問題についてのちのち大転換点と呼ばれる可能性のある要素が三つほど隠れている。

一つは温暖化問題の主導権を日本・米国が少し取り戻したという点である。今回の温暖化関連交渉にあたっての欧州、中国・インド、米国、日本の本音のスタンスは以下のようなものである。欧州「厳しい削減目標を先進国のみでもいいから早く合意したい(そうしないと欧州内排出権取引の信頼性が揺らいでしまう)」、中国・インド「途上国が実質義務を負わず、CDM等恩恵だけもらえる欧州主導の枠組みに賛成」、米国「途上国の参加が必須、早期の削減目標提示は欧州を利するだけなので阻止」、日本「世界全体での削減を実現したい、なんとか議長国としてある程度の合意をまとめたい、ただ京都会議の失敗(一人負け)は避けたい」。つまり2対2、もしくは2対1+議長という極めて不利な状況だった。

しかしながら結果としては米国の歩み寄りもあり、「2050年までに世界の温室効果ガスを半減することを世界全体の目標として共有(share)する」ことが合意文書に盛り込まれた。少なくとも「途上国抜きで数字を早く固めたい欧州」「世界全体で取り組むというコンセプトだけは譲れない日・米」という対立で見れば、一時的とは言え日・米の勝利だったと言ってよい。これは一年前にはばらばらだった外務・経済産業・環境の三省が懸命に認識と戦略の共有化を図ったこと、官邸・福田総理が真摯に取り組んだことによるものであり、メディアはこの点をもっと誉めるべきではなかったろうか。

二つめは、温暖化が先進国と新興国と鋭い対立点になることが明確になった点である。地球温暖化は洞爺湖までは認めない米国・進めたい欧州という先進国間の対立テーマであったが、ポスト洞爺湖では政策枠組みや技術開発・普及で低炭素化を目指す先進国(G8)と、高い成長の途上にあって量的な削減を一切受け付けられない新興国(G5)という、構造的に極めて歩み寄りにくい対立が生まれている。その点で途上国に恩恵だけがあった京都議定書のスキームはある意味自然消滅に向かっているとも言える。

そして三つめは、原油・食糧の激しい高騰の中で「本当に地球環境問題だけが一番大事なのか」「生存権を脅かされている人々に国際社会は何ができるのか」という議論が初めてなされたことである。確かに原油の高騰は先進国のCO2削減を助けるが、世界は先進国だけでできてはないし、そもそも地球温暖化防止よりも人間の生存の方が大事であろう。

こうした三つの要素がこれからどう展開されるか完全には読みきれないが、これによって世界がより地に足の着いた、かつ世界全体のためになる環境エネルギー施策へと動いていくなら、ホスト国日本としては苦労のしがいがあったというものではないだろうか。


西村陽(Kiyoshi Nishimura)

西村陽(Kiyoshi Nishimura)

大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む






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