連載コラム グルメ 【マックロマンスの遊牧民的バーライフ】 Vol.51
まぼろし〜カルバドス〜カザルス(1/2)
バー・スタイリスト MAC ROMANCE
2008/08/01
以前、「なんだかすんごくムカつくんだけど、一度は行った方がいい。とにかく酒が異常にうまい。」というふれこみのバーの情報を得て、興味本意で訪れたことがある。
せまい階段を上がると素っ気ないドアがあってマジックペンで店名が書かれたA4サイズくらいの紙がセロテープで貼られている。看板のつもりらしい。入店してみるとそこはなんてことない普通のカウンターバーの様相。とてもスタイリッシュな空間とは呼べないけれど、ものすごく悪趣味というわけでもない。何となく空気が淀んでいるように感じるのは換気が悪いせいかも知れない。
いらっしゃいませの声はない。バーカウンターの中には店員とおぼしき男がひとり。愛想はないがいちげんお断りという雰囲気でもない。ちょうど永六輔を若くしたような風貌、赤いシャツがズボンからだらしなく出ていたりして、全体として少々不潔なイメージは否めない。15席ほどのカウンターにお客の姿はまばら、酒を飲むわけでもなく、会話を楽しむでもなく、ただそこにぼおっと座っている。
店内のあちこちに酒のメニューが無造作にペタペタと貼られている。寿司屋や居酒屋の「本日のおすすめ」的なスタイルなのだけど、やっぱりこれも白紙にマジックペンで書かれている。字はお世辞にもうまいとは言えない。「コアントロー/○○男爵家/1杯5000円」などと意味不明なコピーと法外なプライスがつけられている。
バックカウンターに並んだ酒の栓はすべて気が抜けないようにガムテープやサランラップで頑丈にぐるぐる巻きにされていてちょっと異様な感じがする。よく見ると、そのへんのバーのストックにあるような普通の洋酒が見当たらないということに気がつく。コニャック、トリプルセック、ドライシェリー...日頃親しみのある洋酒のラインアップなのだけれど、それらが、これまでに全く目にしたことのない商品ばかりなのである。アンティークショップで扱っているような古いデザインのボトル。中には土の中から掘り出してきたような物まである。まるで19世紀の貴族の酒蔵を訪れたようなコレクション。洋酒大事典に載っているような酒は一本もない。
後で知ったのだけれど、これらはサザビーなどの骨董品のオークションで競り落とされた本物のアンティークの酒。実際に当時の貴族らの酒蔵に長年保管されていた貴重な財産なのである。
そんなこととはつゆ知らず、私が注文したものと言えば「ジントニック」。すかさず「トニックウォーターはありません。」「じゃあ、ジンのロックでいいや。」「氷もありません。」「......。」一体何を注文すればよいのやらさっぱりわからない。そしたら店員が何の断りもなく我々の前にグラスを置いて、勝手に酒を注ぎ出した。我々は4人だったのだけれど、それぞれに別の酒があてがわられたのである。
















