連載コラム グルメ 【マックロマンスの遊牧民的バーライフ】 Vol.53

いつもより体をゆっくり動かす(1/2)

バー・スタイリスト MAC ROMANCE


2008/08/15

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いつもより体をゆっくり動かす

某高級ジュエリーブランドの展示販売会でVIPのお客を相手にバーサービスを施したことがある。仕事がら金持ち連中を目にする機会は少なくないけれど、ここのお客はその中でもランクがもう少し上、このクラスになるとあまり派手な風貌の人はそんなに多くない。普通にしていてもどことなく上品な香りがほのかに漂ってきてしまうような人たち、そのへんの成金たちとは、いろんな意味で一線を画している。

会場はいくつかの空間で構成されていて、お客は自由にそれらの間を行き来することができる。コンサートなどのイベントが楽しめるホール、フルコースのランチやディナーをもてなすレストラン、ティータイムをゆったりとくつろぐことのできるカフェ・ラウンジ、そしてきらびやかな宝石の数々が誇らしげにディスプレーされた展示ルーム。各部屋にはライティングやフラワーアレンジメント、BGMに至るまで入念な演出が施されている。たった二日間のためにわざわざホテルをひと館建てたぐらいの大さわぎである。

私が担当したVIPルームには、豪勢なバーカウンターが設置された。部屋の中心には商談のための革張りのソファーが運び込まれ、それを囲むようにガラスのショーケースが置かれていた。ガラスケースの中身は本日のトップセレクション。ひときわゴージャスで高価なジュエリーがVIPゲストのために陳列されている。プライスタグに並んだゼロの数が容易には数えられない。どれぐらい価値のある商品なのか想像すらできないが、少なくとも1億や2億の話でないことだけは確かである。会場にはもちろん黒服に身をつつんだセキュリティーガードマンがあっちこっちに常時配備されているのだけれど、一度、何かの拍子にVIPルームに私ひとりだけが取り残された時間が数分あって、そのときはさすがに足がぶるぶると震えそうになった。金額だけの問題ではない。それらの宝石に人を圧倒させる魔力のようなものが備わっているような気がするのである。

そのような環境でお客のもてなしをするのだから、緊張しないわけがない。こう見えても私は気が小さく、とくに金持ちを相手にするとめっぽう弱気になるのである。私の対応がまずくて、億単位の商談が流れたとでもなれば、ギャラを返上するぐらいではとても許されないであろう。ノーミステイクで乗り切るのはもちろんだけど、できれば「あのバーがよかったね」と言われるぐらいのよい仕事がしたい。

結果的には何のトラブルもなく2日間の行程を無事に終了することができた。自分で言うことではないかも知れないけれど、バーの評判も悪くなかったんじゃないかと思う。





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