西村陽(Kiyoshi Nishimura)
大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む
大阪大学大学院工学研究科客員教授 西村陽
2008/08/18
温暖化問題で重要な論点に移動手段の問題がある。大量の人間を、電気を中心とした高いエネルギー効率で運ぶ鉄道に対して、分散型で燃焼エネルギーを使う自家用車は著しく効率が悪くなる。人が交通機関を使って1km移動する時の排出CO2は鉄道が19g、バスが51g、航空が111gに対して自家用車が171gとなっている。鉄道の規模の経済が大きく、自動車の効率が渋滞で悪くなる大都市では鉄道・自動車の差はさらに大きい。わが国運輸部門のCO2排出量は一貫して増えつづけており、その半分は自家用乗用車によるものだ。例えば現状自家用車で移動している分の10%を鉄道に振り替えることができれば、それだけで運輸部門のCO2は減少に転じる計算になり、このお盆も自動車帰省が減ったといわれる等ガソリンの値上がりが話題になる今日、一見ありえない話でもないように思われる。
しかしながら現状打開は簡単ではない。ここ40年余りの間に全輸送に占める鉄道とバス合計のウェイトは90%から38%に急落したが、これには人々が豊かになり、乗用車を持てるようになったという点と、社会や街の姿が変わってしまい、乗用車がないと便利に生活できなくなってしまったという点の二つの原因があるからである。前者が原因であればエコに目覚めて、あるいはガソリン高に対応して公共交通機関にシフトすることもできようが、駅からはるかに遠い高台の家に住み、離れた大型ショッピングセンターしか買い物先を持たなければ、なかなか車を手放すことはできまい。
こうした社会の変質を、運転免許を持っている人の人口ウェイトで見てみよう。今から30年前、30代女性で運転免許を持っている人は女性全体の10%に過ぎなかった。それが現在では80%に達している。このうち年とともに車に乗らなくなる人がどのくらいいるのははっきりしないが、専業主婦が減少していく今後、子育てと仕事を両立させるために、多くの女性にとって車が生活上不可欠なツールであり続けることは間違いない。しかも、一般的傾向として人は歳をとってもなかなか車を手離さない。今後起こるこれだけのドライバーの増加によるCO2増大をカバーしようとすると、プラグインハイブリッド化や電気自動車がいくら進んでも(電源がすべて原子力・太陽光にならない限りフル電気自動車もノン・カーボンではない)かなり難しい。
自動車の最大の便益とは、「歩かなくて済む」ことにならない。つまり、日本においてCO2排出削減のある部分は「歩かない社会」への加速を止め、「バス停や駅まで歩く社会」へのシフトをどの程度行なえるかの挑戦なのである。ここでの重要なのは、「自家用車を前提とした社会の構造自体を変える」ことである。税、補助金、街づくり、生活習慣への働きかけ、鉄道・LRTのサービス革新等、様々な手段を組み合わせて日本の歴史と技術を生かした低炭素輸送社会化を進めていきたいものである。少なくとも150年前の江戸期には、人々は平気で一日10km歩いていたのだから。

大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む