西村陽(Kiyoshi Nishimura)
大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む
大阪大学大学院工学研究科客員教授 西村陽
2008/09/22
9月15日の米リーマン・ブラザーズの破綻に端を発した金融市場の信用不安は瞬く間に世界に広がり、各国経済に深刻な影響を与えつつある。90年代以降輻輳した投資の過熱と収縮を巧妙に乗り切ってきた米国金融当局だが、二つの住宅金融公社への全面支援等の策を打ち出したにもかかわらず、金融危機を止めることはできなかった。質の悪い住宅ローン債権を金融技術によって市場にうまく溶け込ませたと信じられてきたサブプライムローン証券が、冷静になればただの住宅バブルによる勘違いだったことが明らかになった時、それを持った者はすべて傷つき、事態の加速は本来健全な借り手だった人々の経済活動をも蝕んでいく。かつての日本のバブル崩壊があくまで日本の銀行のオーバーローン(貸し過ぎ)と彼らのバランスシート毀損だったのに比べると、まさに世界規模の信用崩落が起こっているのである。
さて、この事象の地球環境問題への示唆とは何だろうか。もちろん世界経済の先行き不安で温暖化対策が置き去りにならないかという心配もあるのだが、ここでは金融取引という面から考えてみよう。今地球温暖化防止の手法として注目されている排出権取引も、(制度の作り方によるが)実は証券取引の一種であり、その時々のルールと市況によって価格が上下する。本来排出権取引はCO2の限界削減コストの一番低い箇所から着実に対策が打たれるようにするための仲介のツールなのだが、実際に取引所でこの証券を取引する際には、実際の対策とは関係のない金融プレーヤーが入ってくることによって様々な「ブレ」が引き起こされる。行政筋に働きかけて「○○年に80%削減」といった派手な目標をアピールし、先物排出権の相場を引き上げようとする動きもそうだし、相場を見ながらのカラ売り、カラ買いもそれである。
一般に金融市場においては、こうしたプレーヤーが参加することでより流動性を増し、正しい指標を示すようになると考えられてきた。しかしながら、それは「信用の低い低所得者住宅ローンでもまとめて市場に出せば正しい価格が付き、資金の出し手が現れる」という考え方と共通するものがある。すなわち、債券化した前提が間違っていたり、市場の状況が大きく変わってしまえば、むしろ金融市場を通さない仕組みの方が「まし」だったということになりかねないことになる。排出権市場で言えば、相場の低迷や乱高下は地道な温暖化対策のインセンティブを弱まらせ、技術革新の邪魔をする。また排出権価格を維持するためには厳しいキャップ目標を連続的に課す必要があるが、それは一つ間違えれば仕組みの崩壊と排出権の無価値化を招くリスクを孕んでいる。
わが国で排出権取引を批判する意見の中には「マネーゲームになる」「金融プレーヤーだけが儲かる」というものがあるが、最悪もっとひどいことになることを今の金融市場は示しているのではないだろうか。

大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む