西村陽(Kiyoshi Nishimura)
大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む
大阪大学大学院工学研究科客員教授 西村陽
2008/10/20
9月以来の世界経済の大混乱もあって、ポスト京都をめぐる各国の枠組みづくりはジャブを打ち合いながらの膠着状態に陥っている。日本が先日発表した提案では目標基準年を複数とること、主要途上国は主要分野と経済全体の効率目標を設定することが盛り込まれているが、前者はEUETSの取引活況を狙う欧州にとって現状では受け入れにくく、後者は途上国にとっては絶対に受け入れられないものだ。逆に欧州の主張するような途上国を除いてでも早期に数値目標を設定すべきという考え方は、日に日に説得性を失いつつある。
つまり、ここでは欧・米・日・途上国(中国)という4人のプレーヤーが、自分の利益・勝利、あるいは少なくとも負けないことを目指して意志決定を行っているのであり、中でも留意すべきは地球全体のことなどほとんどの参加者は考えていない疑いがあることである。唯一日本は地球全体のために前向きな提案をしているのだが、これは実はこの国は現状の構造では「負け組」であり、かつ地球全体の低炭素化のための技術を4人の中で唯一持っているために、地球全体で取り組むことが自己の利益につながるポジションにいるからである。
このように複数の主体が自分の利得を最大化するために意志決定を行う際の構造を解き明かす手法に「ゲーム理論」がある。例えば有名な「囚人のジレンマ」は、警察に捕まった二人の不審者が、二人とも黙秘すれば微罪、自分だけ自白すれば無罪、自分だけ黙秘すれば死罪、二人とも自白すれば重罪、という条件の下で、二人の最大利益は二人とも黙秘→微罪であるにもかかわらず、互いに裏切りあって自白し、二人とも重罪になってしまうというケースであり、経済学のパレート最適(両者の利益が最大)とゲームの結果(数学者ナッシュが定義したことからナッシュ均衡点と呼ばれる)が合わない典型例とされている。
囚人のジレンマが成り立つ条件は三つあり、1.相手に協力しない方が自分の利得が高い、2.自分が協力しないことで相手の利得は下がる、3.それぞれが自分の利得を追求すると全体の利益が下がってしまう、である。これはポスト京都で言えば、1.自分以外の提案に乗らないほうが有利、2.自分が乗らないと相手は損をする、3.それぞれが自分の利得最大化に走ると地球全体の対策が遅れる、の三つであり、今現在の状況をかなり正確に説明していると言えないだろうか。今まさに各国は「囚人」なのである。
ただ、この四者ゲームの均衡は条件次第によっていくらでも変わる。日・米、米・途上国等、囚人のジレンマの条件を外す連携が生まれる可能性はゼロではない。ゲームの利得である国益と、実効ある対策の実現を天秤にかけつつ、ナッシュ均衡点をずらし、動かす努力がこれから行われることになろう。そういう見方の方が少なくとも「地球のためにみんなが話し合っています」という説明よりもずっと正しいのではないだろうか。

大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む