連載コラム エコ 環境問題【環境戦略の新時代】Vol.27

「高速乗り放題」はちょっと・・・

大阪大学大学院工学研究科客員教授 西村陽


2008/10/30

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「高速乗り放題」はちょっと・・・

米国金融不安は高速の伝染病のように世界経済を蝕んでしまった。その中では金融システムが比較的安定し、バブル的好況ではなかった日本ですら、円高とそれに伴う株安で少なからぬダメージを受けている。

その日本で、政府は補正予算に続く追加経済対策を打ち出した。中身は一世帯平均3.8万円の給付金、雇用保険料引き下げ、住宅ローン減税、中小企業信用保証枠の拡大等だが、中で温暖化対策的に「あれっ!!」というものが一つあった。高速道路料金の大幅引き下げ、具体的には1000円で乗り放題というのがそれである。

日本の高速道路の多くは距離制をとっており、長く走れば高速料金は高くなる。例えば東京駅前から仙台まで高速を使って普通乗用車で移動した場合、高速料金は7200円、燃費13km/リットル・150円/リットルでガソリン代が4050円で計12450円かかり、これを乗車人数で割ったものが一人当たりコストとなる。一方東京→仙台の新幹線指定席は10590円なので、一人で移動する限りは新幹線の方が割安となり、所要時間も車の方が2倍以上かかるのでまあ、二人でも通常は新幹線が選ばれることとなる。すなわち、高速道路の距離制は鉄道・乗用車の選択で乗用車が選ばれないような抑止力となっているのである。

これを1000円で乗り放題にするとどのようなことが起きるだろうか。考えられることは(1)一般道から高速道路へのシフト、(2)遠出するドライバーの増加、(3)鉄道から乗用車への移動手段シフトの三つである。(1)は郡部を中心に高速道路の稼働率を上げ、運転効率も良くするし、(2)は大都市から遠い地域の観光活性化に効果があるので、経済対策としては間違っているわけではない。

しかしながら、(2)と(3)は間違いなくわが国のCO2排出を増やす。まず(2)の遠出の効果について見ると、現状高速道路と地方圏国道の乗用車年間交通量が1.4万台/日で、自動車交通全体の約1/4なので、1000円乗り放題で仮にこれが1.2倍になったとすると、わが国普通乗用車の排出CO2(1.4億t-CO2)の0.25倍×0.2=1750万t-CO2の排出増となる。

また(3)の鉄道からのシフトによるCO2排出増は、乗用車と鉄道の1kmあたり排出CO2の差にシフトする人数と距離をかけたものになる。東京→仙台で言えば12450円と10590円でバランスしていたものが、6250円と10590円のバランスに変わるので、経済的な理由で乗用車を選択するケースも出てこよう。これも鉄道輸送人員の3%のシフトでだいたい1000万t-CO2強のCO2排出増と概算できる。

これらを合わせて3000万t-CO2の排出量増は、日本全体の排出量の2%強にあたる。経済社会の変動や、それに対する対応と低炭素社会づくりを両立させるのがいかに難しいかを考えさせられるニュースではないだろうか。


西村陽(Kiyoshi Nishimura)

西村陽(Kiyoshi Nishimura)

大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む






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