連載コラム エコ 環境問題【環境戦略の新時代】Vol.35

「スマート・グリッド」って凄そう!?

大阪大学大学院工学研究科客員教授 西村陽


2009/04/29

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エネルギー、中でも電気にかかわる事柄で最も説明しにくいものに電力ネットワーク、つまり送電や配電の仕組みや特性がある。かつて2001年にカリフォルニア電力危機が起こった時、原因は杜撰で軽率な自由化の断行による電力需給システムの崩壊だったのだが、当時学習院大学にあった私の研究室を訪れた多くの新聞記者の中で、正確に理解してくれた人は皆無に近かった。説明が悪かったのかも知れないが、なんといっても瞬時の需給バランスが崩れれば途端にすべてが失われてしまうネットワークの特性が極めてわかりにくいからである。「ネットワーク」は素人にとって鬼門なのだ。

その点で今話題の、かつ米国オバマ政権の政策プログラムにも掲げられている「スマート・グリッド」も、「賢いネットワーク」という意味である。ざっとしたイメージで言えばネットワークが高性能のメーターや制御システムでコントロールされていて、電気を供給している発電所や分散型電源(太陽光発電など)、使っている家庭の電気機器、さらには各所にある二次電池(例えばプラグイン・ハイブリッド車に積まれている充電器)を最適運用でき、停電事故にも強い、というものであり、例えば米国で現在進行中のボルダー(コロラド州)の実験では、地元電力会社であるエクセルエナジー社が光ネットワークと計量システムを提供し、ベンチャー系を含む様々なメーカー、ソフトウェア会社が参画して言わばスマードグリッドにかかわる技術のショールームのようになっている。

しかしながら、これに関連して流布している「スマート・グリッド」は極めて新しいもので、これまでの電力ネットワークが時代遅れだ、という常識は、残念ながら知識不足による勘違いである。

電力ネットワークは瞬時瞬時の需給の一致が要求される精密なものであるが、反面十分な余裕、適切な電源バランス、日本に既に行なわれているIT装備があれば、相当量までショック(雷や台風)や質の悪い電源(太陽光など)を吸収することが可能だ。つまり、強いネットワークがあれば家庭内で電気の自給自足を目指したり、電池に溜め込んだりすることは必ずしも効率的ではないのである。

残念ながら米国は、広い国土を貧弱なネットワークでつなぎながら電気事業が発展してきたので、日本のような質の高い送電ネットワークを持っていない。また欧州は、今でも電気の検針が年1?2回、という日本とは比較にならないお粗末な計量制度の国が少なくない。にわかに欧米で起きているスマート・グリッドのブームは、そうした各国事情を目ざとく見つけたIT系メーカーとコンサルティング会社がうまく市場を作りつつある、というのが実情ではないだろうか。

低炭素化の最も有力な手段は、使うエネルギーをカーボンコントロールしやすい電気に変える電化と、電気を低炭素で作る原子力及び再生可能エネルギーであることは誰もが認めるところだが、その際のやり方は様々であり、「スマート・グリッド」という言葉はあくまでその手段の一種を示したコンセプトワードだ、というとらえ方をすべきだと思う。


西村陽(Kiyoshi Nishimura)

西村陽(Kiyoshi Nishimura)

大阪大学大学院工学研究科客員教授(ビジネスエンジニアリング専攻)、関西電力企画室・秘書室マネジャー。1961年富山県生まれ。1984年一橋大学経済学部卒業、関西電力で調査、戦略、環境等を担当。1999〜2001年学習院大学特別客員教授。
主著に『電力改革の構図と戦略』... 続きを読む





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